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第70話 潜入の本音①

Author: 霞花怜
last update Last Updated: 2025-07-13 19:00:14

 俯いていた晴翔が、思い出したように顔を上げた。

「研究室に来る前に、事務に寄って聞いたんですが。積木君も父親の病院に入院しているって。二週間の休学申請が出ているそうです」

 驚いた理玖とは裏腹に、國好と栗花落は訳知り顔をしている。

「入院? 頭を打ったからかな。そういえば、僕が講堂を出た後のことをまだ、聞いていませんよね。佐藤さんと積木君は、どうなったんですか?」

 積木はあの時、佐藤に思いっきり蹴り飛ばされて頭部を教壇に強打していたから、入院したとしても納得だが。佐藤は、どうなったのだろう。

(というか、國好さんたちと、どういう関係なんだろう)

 午前中は弁当窃盗から報告書事件、かくれんぼサークルの話でほとんど終わってしまった。

 國好が、あからさまに理玖から目を逸らした。

「積木大和は頭部を打撲する怪我をして一週間の入院だそうっすよ。都合が悪い事実が発覚した時の政治家や有名人ばりの雲隠れっすかねぇ」

 RISEの存在を警察から隠すための時間稼ぎだろうか。

 理玖が積木との会話を警察に話せば、任意の取り調べくらいはあるかもしれないが。

「向井先生との会話だけでは、証拠不十分で逮捕には至れません。白石が持っていた違法な興奮剤の出所の特定と向井先生の事件で証拠が上がれば、引っ張れないこともないですが」

 理玖は國好をじっと見詰めた。

 さっきから國好に目を逸らされている気がする。

「僕はまだ、積木君との会話の内容を國好さんにお伝えしていませんが」

「協力者からの情報提供です」

 早口で言葉を切ると、國好があからさまに顔を逸らして押し黙った。

 あの状況での協力者など、佐藤満流以外にいないと思うのだ

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    「かくれんぼサークルの乱交集会は年に四回、バレンタイン、GW、夏休み、クリスマスに行われます。薬を使って学生に性交させて、その現場を折笠が招いた教授連中が観察し、お気に入りの愛人《ペット》を探すための集会、というのが実情です」 國好が淡々と説明した内容があまりに驚愕すぎて、理玖と晴翔は蒼褪めた。「ペットって……。それじゃまるで、報道されているDollの実情と、大差ない……」 思わず零れた理玖の言葉に、栗花落が軽く頷いた。「そうなんすよ。人身売買の闇オクとまではいかなくても、乱交集会は会員制で、参加する教授から、折笠は見物料を受け取っているはずなんす。愛人《ペット》の購入には百万以上とか、単発のセフレ《レンタル》なら一回五万以上とか、金が動いてると思うんすよね」 栗花落が困った顔で笑う。 全く笑える話ではない。「そこまで詳細がわかっていて、どうして折笠を検挙出来ないんですか? 現行犯でないと難しいんですか?」 晴翔が難しい顔で問う。「Dollは慶愛大学だけじゃない。全国の大学にかくれんぼサークルのような実態を隠した乱交サークルが存在し、各々に仕切り役《Doll》が潜伏しています。過去に検挙した大学の例を参考に折笠に狙いを定めていますが、慶愛大学での実情はいまだ掴めていません」 聞けば聞くほど、恐ろしい。 メディアの報道があながち間違っていないのが一番、恐ろしいと思った。「トカゲの尻尾きりじゃないすけど、末端の仕切り役をどれだけ掴まえても、Doll本体は止まらない。本部に関わる幹部に、俺らは辿り着きたいんす。だから慎重に捜査してんすよ」 栗花落の目から笑みが消えた。「折笠先生が、Dollの幹部だと……?」

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